友人同士、男女、家族、一般人と識者など、関係は何でもいいのですが、対立する2者間で言い争いになるとたまに出てくるのが、
「○○じゃないあなたにはわからない!」
という、セリフだったりします。
○○の部分には、いろいろな言葉が入ります。
貧乏を経験したことのないあなたにはわからない!とか、子供を産んだことがないあなたにはわからない!とか、両親が離婚していないあなたにはわからない!とか。
私も、26年間生きてきて1回も言い争いをしたことがないほど聖人ではないので、だれかと言い争いをしたときに、ある種の「必殺技」として、これに似た言葉を言ってしまったことが、あったと思います。
そう、このセリフは「必殺技」です。
少子化政策について検討している子供のいない識者と、実際に子育てをしている主婦の女性がいたとします。
この2者間で意見が対立した場合、識者のほうが傍目から見ればどんなに真摯で、理論的に正しいことを言っていたとしても、主婦の女性が「でも、あなたには子供がいないからわからないわよ」と一言いえば、そこから先、子供のいない識者は、何も言えなくなってしまいます。
このセリフのおそろしいところは、この「一瞬で、相手を黙らせることができる」という部分です。
年齢にもよりますが、子供がいないという人は、その人の考えなり事情なり人生観なりに基づいて子供がいないわけなので、そこを突いて相手を黙らせるというのは、ちょっと卑怯なんじゃないか? と最近の私は考えるようになりました。
確かに、子供がいる人にとって、子供がいない人にはわからないわよ!と思わず言ってしまいたくなるような事柄もあるでしょう。けれど、「あなたにはわからないわよ!」で相手を黙らせてしまうということは、対話を拒否した、ということになります。
もし、本当に「子供がいない人にはわからない」と思う事柄があるのなら、それを子供がいない人に、きちんと言葉で説明しなければなりません。どんなに説明が難しくても、どんなに腹が立っても、どんなにふがいない思いをすることになっても、言葉で説明しなければ、対話は成り立ちません。対話を拒否するということは、「この話はなかったことにしよう」というのと同じことです。
人間はスーパーマンではありませんから、1人で複数の人生を体験することはできません。一定年齢以上で子供がいない人の多くは、「子供がいる人生」をおそらく経験できないでしょうし、その逆もまた然りです。両親の離婚を経験していない人にとっては、今から離婚の経験をするために自分の両親に「離婚してくれ!」と頼むわけにはいきませんし、エリートな人生を送ってきてしまった人に、そうでない人生を20歳を過ぎてから体験することは、不可能です。
複数の人生を体験できない以上、だれしもが「わからない領域」というのはもっているものです。「わからない領域」をもっている者同士がお互いを理解し、最適な答えを探していくことが“対話”です。
……ということに最近気づき、もし私が今後、何かの機会で議論や言い争いをすることになった際には、この類の「必殺技」は絶対使わないことにしよう! と思いました。
同時に、とても大切な議論をしているときに、このセリフを使って相手を黙らせている人を見てしまったら、申し訳ないけれど、私はその人をちょっと軽蔑してしまうかもしれません。
この「必殺技」を使えば、相手を黙らせることができます。同時に、それは対話を拒否したことになります。対話を拒否したということは、試合を放棄したということです。このセリフを使ってしまった途端、勝ったように見えて、実は負けてしまっているのです。
「必殺技」は「反則技」です。
みなさん、気を付けよう!
★★★
とはいえ、今からでも簡単に体験できるレベルのことなら「○○じゃないあなたにはわからない!」を使うのもアリだと思います。「このラーメンを食べたことがないヤツにはわからない!」とか。チェコ映画のすばらしさは、1度見てみないとわからないので、みんな見てくださーい!
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