日々生活を送ったり、いろいろな映画や文学作品に触れていると、「あ、私、まあまあ頭やばいな」と思う瞬間がある。この文脈における「やばい」にはポジティブな意味は1ミリも含まれていなくて、ネガティブ100%の、「法に触れる罪を犯しちゃいそう」という意味だ。
この「やばい」瞬間が、今みたいに日々3秒程度におさまっていればいいが、1分、10分、1時間、半日……とかに長引くと、きっと1人や2人、殺しちゃうんだろうな。これはそういう意味の「やばい」である。
キャッチャー・イン・ザ・ライ (ペーパーバック・エディション)
- 作者: J.D.サリンジャー,J.D. Salinger,村上春樹
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2006/04/01
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ジョン・レノンを射殺した男、マーク・チャップマンがJ・D・サリンジャーの名作『ライ麦畑でつかまえて』の熱狂的な読者であったことは広く知られている。チャップマンはジョン・レノン射殺の裁判で、『ライ麦畑』でもっとも有名なホールデン・コールフィールドのあのセリフ(ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ)を、朗読までしているらしい。
では『ライ麦畑』は、そういった殺人を引き起こしてしまうような「悪書」なのか? というと、チャップマンが物語において行なった解釈は誤っており、あれはそういうことを描いた物語ではない──世界は「無垢VS欺瞞」というような単純な二分構造では捉えられない、と考えるのが一般的みたいである。
一般的、といってしまうのはちょっと漠然としているけれど、少なくともこのテーマは後の『フラニーとズーイー』までサリンジャーの作品において引き継がれている。世界は単純化できない、無垢と欺瞞を両方孕んだ複雑な社会を私たちは生きていかなきゃいけないんだと、そういうふうに解釈したほうが自然である。同じ1人の人間の中にも、無垢な部分と欺瞞に満ちている部分がある。それは、そういうものなのだ。
……と、いうのがいわゆる「お行儀の良い」解釈で、私だって9割はそちらを支持しているんだけど。でも、いつどこで歯車が狂って、残り1割のほうの解釈で動いてしまうか、ちょっとわからないなって思うことはある。ものすごく悲しいことがあったり、やりきれない理不尽なことがあったりしたら、頭の糸がぷっつんと切れちゃうかもしれない。だから、マーク・チャップマンがジョン・レノンを殺害したことは間違っているし、そもそも『ライ麦畑』の物語の解釈も間違っているということは前提に置いた上で、それでも「まあ気持ちはわからんでもない」と、そう思っちゃう瞬間が私にはある。1日に3秒くらい。
たぶんもともとの思想がまあまあやばくて、狂信的で先鋭化しやすいところがあるってことを、私は31年間自分という人間と付き合ってきてよくよく知っているわけだ。このあたりは、最近読んだ「連合赤軍もの」でも実感している。「革命だ!闘争だ!」と息巻いて山の中にこもったり、理想を実現するために仲間をリンチで殺したり、私、そういうことをやりかねないと思う。やりかねないと……まじで、思う……少なくとも、まったくの他人事とは思えない。
- 作者: 永田洋子
- 出版社/メーカー: 彩流社
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1日3秒が、1分に、10分に、1時間に、半日にならないために、私は何をしているか。そのために、他人と一緒にいるんだな、と思う。恋人や友人や同僚といるんだなと思う。
マーク・チャップマンに、友達はいたのかな。改めて、この人について映画とかを観てみようかなという気になった。いたのかもしれないし、いなかったのかもしれないな。いてもああなる可能性があるって話だと、私もちょっと生存戦略を考えなきゃだけど。
サリンジャーの作品は大好きなのですでにたくさん読んでいるんだけど、改めて、この人の作品をもう一度読み込みたいと思った。何度でも、何度でも。
サリンジャーほど孤独な人はこの後にも先にもいなかったんじゃないか。
— チェコ好き (@aniram_czech) 2018年11月7日
「僕は夫にも父親にも友人にもなれなかった。作家にしかなれなかった」ってセリフでちょっと泣いちゃった。
ニコラス・ホルト主演『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』予告編 https://t.co/dGr40ddvXT
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- 作者: 村上春樹,柴田元幸
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