灯台もと暮らし編集長、伊佐知美さんから著書『移住女子』をご恵贈いただき、週末に読んでいました。以下は、そんな『移住女子』の感想です。
- 作者: 伊佐知美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2017/01/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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『移住女子』になると、孤独から解放されるかも?
さっそくですが、私が本書を読んでいちばん印象に残ったのは、新潟県十日町市池谷に移住した、佐藤加奈子さんのこんなお話。
移住をしてから祈ることが増えました。正月には「どんど焼き」で五穀土壌を祈り、1月の「鳥追い」では鳥害を防ぐために子どもたちが集落を練り歩きます。また11月には「農神祭」が行われ、無事収穫できたことを集落住民全員でお祝いする儀式をします。人間にはどうすることもできない自然相手だからこそ、祈りを捧げる意味があるのだと思います。それは不思議な感覚で、信じる神様がいたわけではなかった私にも、農業を営んでいると、神様がいるような気がしてきます。
(p.72、強調はチェコ好き)
東京や大阪などの都市に住んでいると、「神様」なんてのは海外のイスラム教やヒンドゥー教か、あるいは新興宗教くらいしか縁がなくなってしまいがちです。だけど、日本はもともと色濃い多神教の国。都市に住んでいる私たちが気になるのは会社や飲み会やSNSを通した「人」の視線ですが、地方に移住して農業などをやると、自然と触れ合う中で「人」以外のものの存在がもう一度、蘇ってくるんだなあと思いました。
実は私、連載しているSOLOで「都市に生きる者の孤独」について書いたことがあります。
都市に住んでいると、土はコンクリートの下にしかないし、緑は手入れされた街路樹や芝生しかありません。そんな中では、「人」しかいないので、とにかく「人」のことが気になる。「うわっ、私の年収、低すぎ……?」とか、「酔って転んで男に抱えて貰うのは25歳までだろ 30代は自分で立ち上がれ もう女の子じゃないんだよ? おたくら*1」とか、「人と比べて自分はどうか」ということに思考が行きがちです。「人」に仕事で認められたい、「人」に愛されたい。だけど、「人」に認められたり「人」に愛されたりするのは、いつも上手くいくわけじゃないし、なかなか難しいときもあるので、現代人の多くはそこで悩んで苦しんでいるのだと思います。
でも自然豊かな場所へ居を移すと、実は世界は「人」以外にも有象無象がうじゃうじゃしていることに気付く。そしてその有象無象のうじゃうじゃが季節とともに移り変わって、美しい景気を見せてくれたりすると、なんとなく「私の命、愛されてるな〜」という気分になれるんじゃないかと思います。
もちろんどんな状況においても私たちが「人」であることに変わりはないので、「人からの承認」は必要です(『移住女子』のみなさんはだいたい移住先で結婚されている)。それでも、都市に住んでいるときほどせかせかしなくなるような気がします。佐藤加奈子さんの話を読んで、そんなことを考えました。
あとは現実的な話として、地方へ移住すると世代を超えた地域コミュニティみたいなものに属すことになるらしいので、コミュニティの結びつきが希薄な都市部よりも孤独を感じにくくなるという側面もあるようです。「孤独だ!!!」とつらい夜を過ごしがちな方は、きっと移住が向いているのではないかと思いました。
若さとは相対的なもの
加えて面白かったのは、「移住女子はモテるのか?」という伊佐さんのコラム。ここではマンガの『東京タラレバ娘』を例に、「33歳はおばさん」という都市でありがちな価値観が地方へ行くと変わる、という話がされています。高齢者が多い地方では、20代や30代なんてのはまだピチピチで、40代だって若者扱いされることがあると。実際の『タラレバ娘』でも、倫子たちが地方の港町に行ったらおじいちゃんたちにすごいチヤホヤされたというエピソードが出てきます。
一見すると笑い話のようでもあるけれど、都市で重視されがちな「若さ」とか「賢さ」とか「センス」に絶対的な基準なんてありません。そういうのは全部相対的なものであると気付くのは、生きることをかなりラクにしてくれそうです。
ちょっとちがう話ですが、私の友人にものすごくモテる女子がいて(現在は既婚)、以前モテるコツを聞いたことがあります。そのとき彼女が「コツはない。自分の釣り堀の場所を把握すればいいだけ」と潔く答えていたことを思い出しました。女性の魅力だって絶対的な基準はなく、あくまで相対的なもの。都市に住んでいていまいちモテないと悩んでいる方は、思い切って地方へ移住すると、(釣り堀が変わるので)何もしてなくてもすごくモテるようになる。これは十分ありうる話だなと思いました。
現在の私は地方への移住は特に検討していないのですが、そんな人であっても、「日本の伝統」「多神教信仰」などに興味を持っている人は面白く読めそう。そして蛇足ですが、現在の私が都市に住んでいる理由、それは今ここにある「孤独」をまさに愛しているからだと、自分の生活を見直すきっかけにもなりました。というわけで、おすすめです。