チェコ好きの日記

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2019年に読んで、面白かった本ベスト10

毎年、年末になるとまとめている恒例のやつ「2019年に読んで、面白かった本ベスト10」です。今年は上半期編のまとめを書き忘れているな!? 

下は昨年のやつです。なお、「2019年に発売された本」ではなく「2019年に私が読んだ本」から選んでいるので、当然ながら古い本もあります。

aniram-czech.hatenablog.com

10位『男どき女どき』向田邦子

男どき女どき (新潮文庫)

男どき女どき (新潮文庫)

  • 作者:向田 邦子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1985/05/28
  • メディア: 文庫

実は私はこれまで、日本の女性作家の本をほとんど読まなかった(唯一の例外が吉本ばなな)。でも今年は向田邦子岡本かの子など、わりと女性作家の小説を読んだな。理由は主にAMの連載のためだったんだけど、食わず嫌いが直り読書範囲が広がって個人的にすごく楽しかった。来年は存命の日本人女性作家の小説をもっと読もうと思っていて、三宅香帆さんの『副作用あります!? 人生おたすけ処方本』にあった江國香織とか、島本理生とか、山田詠美とかが家に積ん読になっている。

『男どき女どき』は、幸せとか幸せじゃないとか、そういう次元では語れない恋愛や家族の微妙な問題について書いてある短編集だと思う。

9位『幸福な監視国家・中国』梶谷 懐,高口 康太

幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)

幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)

中国が監視社会だとはずっと前から言われていて、私たちはそれからついジョージ・オーウェル的なディストピアを連想してしまうけど、実際の「監視国家・中国」は小説そのままの地獄なのか? 幸福な一面もあるのではないか? という立場からいろいろなことが考えられている本。実は、中国人のほとんどは自分の情報がほとんどすべて政府に筒抜けになっていることに、不満を抱いていないらしい。

面白かったのは、今の中国がそうだというわけではないのだけど、今後もっとテクノロジーが発展し監視体制が強まっていくと、犯罪が起きる前に犯罪者(になろうとしている人)の不穏な動きを感知して、犯罪を未然に防いでしまうような社会が可能になるのではないか、という仮説が書かれていた章。まさかの殺人率0%の社会が実現できる!? それがユートピアディストピアなのかは、まだ私にはわからない。友人にこの話をしたら『マイノリティ・リポート (字幕版)』の世界だ、と言われました。観たことなかったので、来年観る。

8位『予告された殺人の記録』ガルシア=マルケス

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

アルゼンチンへ向かう飛行機の中で読んでいた本。私の人生で初めて南米大陸に上陸するぞ〜ということで、南米の小説を持っていったのでした。閉鎖的な田舎町で、十分な犯行予告があったにも関わらず、ある男が滅多切りにされる事件を描く。あまりにも幻想的というか、「そんなことある?」という感じなので、私は途中までフィクションだと思っていたのだけど、これは実際に起きた事件なんだって。

自分が殺される日、サンティアゴ・ナサールは、司教が船で着くのを待つために、朝、五時半に起きた。彼は、やわらかな雨が降るイゲロン樹の森を通り抜ける夢を見た。夢の中では束の間幸せを味わったものの、目が覚めたときは、身体中に鳥の糞を浴びた気がしていた。

これが冒頭の文章で、この後に惨殺されたサンティアゴ・ナサールの母親の夢診断の話とかが始まる。ありえない世界がありえている。2020年はまた違うところを旅する予定だけど、南米文学は、今後も私にとってとても重要なものになりそうです。

7位『死の棘』島尾敏雄

死の棘 (新潮文庫)

死の棘 (新潮文庫)

  • 作者:島尾 敏雄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1981/01/27
  • メディア: 文庫

これは2019年の正月に読んでいた本。夫・敏雄の浮気を知った妻・ミホが、精神を病んで狂っていく。

ただこの『死の棘』はあくまで男の側から書かれたものであり、物語としては面白いものの、美化された部分や省略された部分が当然ながらある。どのあたりがそれに該当するのかは、梯久美子さんの『狂うひと :「死の棘」の妻・島尾ミホ (新潮文庫)』を読むとわかるだろう。この本で、妻・ミホ側の視点から物語を見ることができる。2冊合わせるとすごいボリュームになるけど、ぜひ合わせて読んでみてほしい。

ただ、妻・ミホだって真実をありのまま遺せたわけではない。人間が記録するものには、多かれ少なかれ「嘘」が混じっている。それはその記録者が悪いわけではなく、そもそも記録というのがそういう性質のものだからだ。真実はどこにもなく、今は亡き敏雄とミホだけが知っている。いや、2人でさえも知らないかもしれない。2020年はミホが書いた文章も読みたいので、『海辺の生と死 (中公文庫)』とかをポチろうかな〜。

6位『辺境メシ』高野秀行

辺境メシ ヤバそうだから食べてみた

辺境メシ ヤバそうだから食べてみた

今回あげる10冊の中ではもっとも気軽に読める本のはずなので、kindle版もあるし、年末年始に読む本を探している人には強力に推したい。しかし、気軽に読めても中身の薄い本ではない。高野秀行さんが世界の辺境で変なメシを食べるエッセイ。ゴリラとか、猿の脳味噌とか、ラクダの乳ぶっかけ飯とか、羊の金玉とか、タランチュラとかを食べている。ようするにグロ注意なのだが、写真はそこまで刺激的じゃないのでたぶん大丈夫(個人の意見です)。

グロ注意な食べ物の連続で「うわ……」とは思うものの、それを食べている人がこの世界のどこかにいる、ということは事実で。世界の食文化の底知れなさがわかるし、我々も海外の人から見たら「うわ……」なグロ注意な食べ物を、美味しい美味しいと言いながら食べていることに変わりはない(というか、「辺境」には日本も含まれるので、日本の変な食べ物もたくさん載っている)。我々の食卓に日々あがっているものなんて世界の食べ物の中のほんのちょっとに過ぎない、と気付くことで魂が救われる人がどれくらいいるのかは不明だが、少なくとも私の魂は救われた。

5位『侍女の物語マーガレット・アトウッド

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

これは原作を読み終わって、今わざわざこれのためにHuluに加入してドラマ版『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』を見ている。時系列が交錯する系の物語なので、もしかしたらドラマ版のほうがストーリーが頭に入りやすいかも(私はそう)。

物語の舞台は、近未来のアメリカだ。環境汚染が進み、女性の不妊率が上昇、出生率が大幅に減少している。かつてのアメリカは、キリスト教原理主義者が支配する「ギレアド共和国」という国になっている。ギレアド共和国で、妊娠することができる健康な女性は「赤いセンター」に集められて教育を受け、その後侍女として「司令官」と呼ばれる地位の高い男性の家に派遣される──司令官の子供を妊娠するために。


待望の『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』シーズン2、ティザー予告

予告編を見てもらうとわかるように、物語はとにかく暗い。相互に監視しあい、楯突いた者には厳格な罰が待っている。私がもともとちょっと暗めの話が好きなのでハマったのだけど、ジョージ・オーウェルともオルダス・ハクスリーとも違う、女性作家によるディストピア小説の世界を楽しむことができる。来年また詳しく感想を書きたいなーと思っているので今回は短めに。

4位『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

今年(去年?)とても流行った本なので、読んだ人も多いのではないかと思う。流行にのって、2020年はもっと韓国文学を読んでいきたい。

内容については、「ちょっと悲劇的に書きすぎでは?」という思いと、「まさにこの通り」という思いがそれぞれに独立してある、私にとってはなんだか不思議な小説。ただひとつ「それ!」と思ったのは、この小説はいわゆる「フェミニズム」の思想の文学であるわけだけど、女性たちを虐げる存在が決して電車の中の痴漢や会社のセクハラ上司や居酒屋のおっさんだけはなく、信頼している恋人であったり、夫であったり、男友達であったりするところ。信頼しているからこそ、彼らに裏切られるととても悲しい気持ちになるし、彼らは彼らでこちらを裏切っていることにまったく気が付いていない。

キム・ジヨンを囲んで男性たちが行った座談会の記事がとても興味深くて、男の人にとってはこの小説に書かれていることは「いつの時代の話?」なんだなと納得した。いや、めちゃくちゃ現代の話ですけどね! 映画化もするらしいけど、まだまだ議論を呼びそうな小説である。

wotopi.jp

3位『テヘランでロリータを読む』アーザル・ナフィーシー

テヘランでロリータを読む(新装版)

テヘランでロリータを読む(新装版)

著者はイラン出身の英文学者。イスラーム革命後の抑圧的な社会状況のイランで、著者は嫌気がさして勤めていた大学を辞め、自宅で女学生を集めて小さな読書会を開く。ナボコフ、オースティン、フィッツジェラルドなど、当時イランでは禁じられていた西洋文学が、この読書会の主な課題図書だった。

ナボコフフィッツジェラルドが描いた西欧の世界とイスラーム革命後のイランでは、当然ながら社会状況がまったく違う。だけど、『ロリータ』やら『グレート・ギャツビー』やらを題材に、著者と女学生たちがときにケンカしながら議論を深めていく様子が面白い。

私の本『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか 女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド』でもこれを巻末で紹介していて、その中で「感情に言葉があたえられる」という表現を使ったのだけど、文学を読んでいると、どこにもやり場のない感情や、言語化しきれていない違和感などに居場所があたえられる瞬間があるんだよね。イランの抑圧的な社会の中で、他人のその瞬間を見ることができる。私にとっては「人間がいかに文学に救われるか」を教えてくれる、何度も読み返したい本です。

2位『伝奇集』J.L ボルヘス

伝奇集 (岩波文庫)

伝奇集 (岩波文庫)

2018年の12月にアルゼンチンに旅行に行くことを決めて、そのときに即買いしたボルヘス。詳しい感想はすでに年始に書いてしまったけど、その後この中にある短編『バベルの図書館』からインスパイアされたらしいフエギアの香水「Biblioteca de Babel」をゲットしたので、2019年は年始に宣言したとおり「におい」の年になったのではないだろうか。

1位『においの歴史』アラン・コルバン

新版 においの歴史―嗅覚と社会的想像力

新版 においの歴史―嗅覚と社会的想像力

1位が「それなの!?」という変なチョイスになってしまったのだが、なんかこれがいちばん面白かったんだわ……。

我々は今、他人や自分の体臭にびびり制汗剤をシュッシュして、部屋のにおい対策にファブリーズをシュッシュする生活を特に疑問に感じることなく送っている。だけど近代以前には、当然ながら制汗剤もファブリーズも存在しなかったわけで、そんなふうに人類が「におい」を気にしだしたのはいつからだったのか? を紐解いていく。本の中で中心的に扱われているのは、18〜19世紀の西欧(特にフランス)だ。著者のアラン・コルバンは、この時代に「嗅覚革命」ともいえる社会の変化があり、それを境に私たちの嗅覚が変化したのだ、という。

昔のパリが犬やら馬やら人間やらの糞尿であふれめっちゃ汚かった&臭かったのは有名だけど、当時の人々はあんまり気にしなかったというか、「まあそういうもんだよね」くらいの感覚だったらしい。だけど18世紀の半ば、医者や化学者が突如これらを「悪臭」と決め、排斥の対象にし始めた。なぜか。公衆衛生、清潔、無臭という概念を導入することよって、新たに力を持ち始めたブルジョワ階級が、悪臭に鈍感な貴族階級と下層階級を排除したかったからだ。つまり、今の我々が絶対正義だと思っている清潔、無臭という概念は、他者を差別するために導入されたものだったのである。

臭いものは、臭い。それは五感の感覚であって、間違いようのない絶対的なものだ。多かれ少なかれそう思っている人はいるだろう。でも、違う。汚い、臭い、不潔、そういった概念だってやっぱり社会が作っている。とはいえ、じゃあ明日からもうお風呂に入りません! ってわけにはいかないのだが、五感ですら絶対ではないのだと気付くことで、魂が救われる人もいるのではないか。少なくとも私の魂は救われた。

個人的に今年は香水にハマった年でもあるので、「におい」をめぐる諸問題についてなんかいろいろ考えていたのでした。

まとめ

そしてそして、2019年に出たワタクシの本もどうかひとつよろしくお願いします! Kindle版も出てます! ツイッターを見ると感想を書いてくれている方がたくさんいて、とても嬉しいです。ありがとうございます〜。

本を書かせてもらったりいろいろな媒体にコラムを載せていただいたりで、総量としての「書いている量」はあんまり減っていないはずなのだけど、それにしても来年はもう少したくさんブログを更新したい。よいお年を……。