イベント後記を書くのが遅くなってしまいましたが、9/7(月)に京都のDeまちという会場をお借りして、トークイベントを行ないました。参加していただいたみなさん、対談相手となっていただいた倉津拓也(@columbus20)さん、企画・運営をしてくださったスタッフの方々に、改めて感謝です。おかげで、とても濃密で楽しい時間を過ごすことができました。
※全員いいかんじに顔がわからない写真を選んだのですが、不都合のある方がいましたら遠慮なくおっしゃってください
お話した内容1/チェコのこと
今回は、事前にみなさんに私への質問をいただいておいて、それに答えていくという流れで基本的には進行しました。私としては、チェコに関する質問をたくさんいただいたのがちょっと意外でしたね。「チェコ好き」とか名乗っておいて「チェコの質問が来ると意外」とかどういうことだよ、というかんじですが、久々に学生時代の専門領域に関するお話をしたので、少々しどろもどろになってしまいました。
ボロが出ると恥ずかしいのでブログにはあまり書いていないのですが、私の専門は〈1960年代のチェコ映画〉です。この時代のチェコの映画界は、チェコ・ニューウェーブと呼ばれる新進気鋭の映画監督たちがわんさか登場してきてとても楽しいのです。私が大好きなヤン・シュヴァンクマイエルはアニメ作家なのでこのニューウェーブからはちょっと外れるんですが*1、修士論文で扱ったイジー・メンツルはこのニューウェーブの世代に当てはまります。
しかしこの楽しい時代は、1968年のプラハの春によって終わりを告げてしまうんですね。ミロシュ・フォアマンやヤン・ニェメツは国外へ亡命します。だけど、私が卒論・修論で研究した2人、シュヴァンクマイエルとメンツルは、上映禁止処分を何回もくらいながらも、しつこく国内に残ったんです。
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芸術のため、自由に映画を撮りたいのなら、とっとと国外へ逃げればいいはずです。だけど、私を惹きつけた2人の映画監督は、なぜチェコを離れなかったのか。きっと彼らの作品は、アメリカやフランスでは作れないものだったんです。チェコでないと作れない映画、もしくはチェコで作らないと意味がない映画だったんです。それが具体的にどういう性質の映画であるのか、私は結局うまく言語化できずに学生時代を終えてしまったのですが、おそらくこのときから私は、土地と、その土地が生み出す作品には密接な関係があるーーということを強く考えるようになったのだと思います。チェコでしか生まれ得ない作品があるように、ローマでしか生まれ得ない作品があり、ニューヨークでしか生まれ得ない作品があるわけです。
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だからきっと私は、旅行が好きになったんでしょう。その土地の景色を見て、その土地の食べ物を食べて、その土地の空気を吸って、その土地に住む人々と言葉を交わして、そうすることでやっと理解できるものがあります。そういえば、この話は昔ブログに書いてました。
旅と芸術を自分の人生の主軸に据えることができた私は、幸せ者です。なぜならこれを探求することは、一生終わることがないからです。終わるわけがない、終わるはずがないです。世界中のいろんなものがリンクして、複雑に絡み合って、また新たな謎を作っていく。私は一生それらの謎に振り回されることになるんでしょうけど、もういいや。苦労も貧乏もするかもしれないけど、死ぬまで一緒にいます(結婚式みたいになってしまった)。
お話した内容2/ごはんのこと
いただいた質問のなかで、「シュヴァンクマイエルのどういうところに惹かれるんですか?」というのがあったのですが、私はこれに「ごはんをマズそうに描くことができる数少ない芸術家だから」というふうに答えました。
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私は人より胃が小さいのか、昔からわりと少食だったんです。あと胃腸が弱い。モノが食べられない、あとついでにお酒も飲めない、たぶん人からすると「生きてて何が楽しいの?」ってかんじの人間だと思います。だけど私みたいな体質の人って実はけっこういて、私はこういう体質の持ち主を「生まれながらにして人と楽しく談笑する機会を奪われた人」だと思ってるんですけど、それってちょっと中2病っぽいですね、まあいいや。しかも私の場合、これにバカ舌が加わるので、書いてて自分で悲しくなってきました。
ごはんの味を噛み締めながら、美味しく楽しくおしゃべりすることができないというのは私のなかなか重大なコンプレックスです。だけどシュヴァンクマイエルの映画を観ると、やっぱりちょっと安心するんですよね。そんなに毎食マズイと思ってるわけじゃないですけど(むしろバカ舌だからなんでも美味しい)、脂身ばっかりのスープのなかに釘が入っていたり、カニバリズムの表現があったり、そういうのを見ると「根本的な部分で食事が楽しめない」という自分を理解してもらえたような気分になるわけです。そして、ごはんの話の流れで以下の本の話題も出ましたね。私もこちらは未読なので、近いうちに読んでみようと思っています。私は「フード右翼」になるんですかね。
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しかし、これはイベントでもお話したことですが、私はこのブログによって、自分と同じような孤独な人間を集めて肯定したいとはあんまり思っていません。どちらかというと、ごはんを毎回楽しく食べている側の人に自分の文章が届けばいいな、と思って書いています。その理由はうまく説明できないけど、おそらく「私の存在を認めろ」というメッセージなんでしょう。「認めて」じゃなくて「認めろ」ね、ここけっこうポイントです。ゴマをするよりは鈍器で殴るイメージです。
このあたりは誤解を招きがちな危なっかしい表現にはなってしまうんですが、私は孤独な人間同士が群れても共依存になるだけだと思っているので、それよりは1人1人がゲリラ戦を戦うつもりで、世の中に堂々と「No」をいっていかないといけないし、そうすることでしか孤独は癒されないと考えています。だからもっと、もっともっと強くなってほしい。私のこの思想が、いつの日か「あの頃は青かったな」と覆ることはあるかもしれないけど、今は、少なくともそう思っています。
……という、思い返すとなかなかディープな話をしていた気がします。こういう話ができるのは、リアルのイベントならではですね。
まとめ
あと最後に、「これ読もう!」と思ったのが、倉津さんにご紹介いただいたこちらの本。
- 作者: 宇野常寛,浅子佳英,門脇耕三
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ごはんにファッションに、私は今後、より生活の身近なところについて語っていくことになるのかもしれません。チェコとか旅行とかアートとか、いろんなことを書きすぎてものすごい訳のわからないブログになっていますが、根本にある思想はずっと変わっていない、と自分では思っています。だからなんというか、もし今後も私の文章を読んでくれる奇特な方がいらしたら、どうか引き続きお付き合いください。
私はきっと、あなたを楽しませます。
京都でお世話になったみなさん、本当にどうもありがとうございました!
*1:シュヴァンクマイエルも、世代的には一緒なんですけどね