チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

2020年に読んで面白かった本ベスト10

年末恒例のやつです。今年私が読んだ本の中で、面白かった本10冊のまとめ。「今年出た本」ではなく、あくまで「私が今年読んだ本」の中で順位を決めています。ちなみに上半期のまとめはこちら。

aniram-czech.hatenablog.com

10位 『贅沢貧乏のマリア』群ようこ

贅沢貧乏のマリア (角川文庫)

贅沢貧乏のマリア (角川文庫)

本家の森茉莉の『贅沢貧乏(新潮文庫)』よりも、それを一歩引いて見つめた『贅沢貧乏のマリア』のほうが結果的には面白かったな。私はいわゆる自己責任論がめちゃくちゃ嫌いなので「金がないのも孤独で寂しいのも自己責任、自分次第、努力で解決できる!」とはあまり思ってないんだけど、心の中で貴族になることってできるんだよね。自分もせかせかと働いてお賃金を得ておりますが、マインドだけはいつだって高等遊民さ。


(※このツイートは私の本『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか 女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド』に書いた話)

(※この本について書いたコラムはこちら)
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9位 『アーレントハイデガー』E・エティンガー

アーレントとハイデガー

アーレントとハイデガー

ハンナ・アーレントハイデガーは俗にいう不倫関係であったわけだけど、実際のところお互いのことをどう思っていたのか? それは往復書簡をいくら辿ったところで当人同士にしかわからない。わからないんだけど、思想と歴史によりめんどくささが倍増してしまったこの2人の関係が私はどうもすごく好きらしい。アーレントは情に絆されてかつての恋人ハイデガーの思想を擁護したのか、あるいはその真意はユダヤ批判ではないとするハイデガーの思想を見抜いて信じていたのか。今後もこの2人に関する面白い関連書籍があったら読みたい。

8位 『聖なるズー』濱野ちひろ

聖なるズー (集英社学芸単行本)

聖なるズー (集英社学芸単行本)

2020年の上半期に読んですごく面白かったノンフィクション。ただ読み終わって時間が経ってみると、「動物性愛」とはつくづく難しいテーマだなという考えが深まっている。彼ら(人間)とパートナー(動物)の間にはたしかに信頼関係があるので、彼らのしている性行為を即時に動物虐待と結びつけなくてもいいんじゃないかなーと私は思うのだが、それをもって「対等な関係」といえるかどうか、そもそも「対等な関係」なんて人間同士でも成立しうるのか、なんて考えていくと本当にキリがない。

7位 『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹

今年の読んでよかった本には村上春樹が2冊も入っていて「あんたやっぱりムラカミのおじさんが好きなのね」という感じになってしまった。ただしこの『猫を棄てる』は、村上春樹がはじめて自分の父親、出生について語ったエッセイということで、サンドウィッチもウイスキーもレタスもコーヒーもオムレツもジャズも出てこない。なぜなら村上春樹は日本人だから。代わりに出てくるのは、納豆と味噌汁と梅干し。それがなんとも不思議に感じるエッセイだった。

(※詳しい感想はこちら)
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6位 『ワールズ・エンド(世界の果て)』ポール・セロー

AMのコラムでは表題作『ワールズ・エンド(世界の果て)』と『ボランティア講演者』について書いたんだけど、他にも『コルシカ島の冒険』『真っ白な嘘』『緑したたる島』あたりの話はかなり好きだったなと。「何かが間違っているのだけど、何が間違っているのかがつかめない」と訳者の村上春樹が解説で書いていて、まあ全体的にそんな雰囲気の短編集。極めて個人的な行き詰まりを描いているのに、舞台だけはグローバルなので旅行気分も味わえて楽しい。

(※この本について書いたコラムはこちら)
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5位 『幻のアフリカ納豆を追え!ーそして現れた〈サピエンス納豆〉ー』高野秀行

「納豆は日本にしかない、日本の伝統食」とみんなが言うので「へーそうなんだ」と素直に信じる反面、「食文化に限ってんなわけねえだろ」という疑いも持ち続けたまま30年以上生きてきたのですが、どうやら「んなわけねえだろ」が勝ったもよう。納豆は韓国にも他のアジア諸国にもあるし、なんならアフリカにもある。この本を読んで思ったのは、「歴史」ってのはやっぱりずいぶん恣意的なものなんだなということ。バイデン氏が大統領選で勝利したことは歴史として残るけど、今日誰かが食卓で納豆卵かけごはんを食べたことはどこにも記録されない。だから、「生活」ってあとで振り返るときにすっぽり抜けてブラックボックスみたいになってしまうんだな〜なんか怖! と思いました。

4位『ラオスにいったい何があるというんですか?』

私は村上春樹旅行記がとにかく大好きなんだが、ある時期から旅行エッセイ書かなくなっちゃったんだよねこの人。そんな村上春樹がまた旅行エッセイを出したぞ! と聞いたときは嬉しい反面、「めっちゃつまんなくなってたらどうしよ」という恐怖があり今年になるまで手が出なかったのを、やっと読んだ。結果、やっぱり村上春樹の旅行エッセイはすごくすごくよかった。恥ずかしいことをいうと「私もこんなふうに書けたらいいのになあ」と相変わらずの嫉妬を覚える文章だった。特に好きなのはアイスランド編。海外旅行解禁されたら行きたい場所として脳内予約してあります。

3位 『ニューヨークより不思議』四方田犬彦

ニューヨークより不思議 (河出文庫)

ニューヨークより不思議 (河出文庫)

四方田犬彦氏のニューヨーク滞在記。著名な映画監督や画家や評論家がたくさん出てくるので嫉妬を覚えるが四方田犬彦氏なのでしょうがない。ただもちろん「イケてる俺のイケてる交流記」などではなく、焦点が当てられているのはニューヨークに住むアジア系の人たちで、「なんでもアリ」なはずのニューヨークでstrangerとして生きる人々のどうしようもない居心地の悪さみたいなものが書かれている。まあ、四方田犬彦氏って私の恩師なので、こんな浅い感想が目に入ったら半殺しにされる気がするので先生読まないでください。

2位 『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー

この小説は、とにかくもうめちゃくちゃ面白かったしAMのコラムもたくさんの人に読んでもらえたっぽいので大満足。すごく意地悪な終わり方をしているし、実際「うわ、きっつー!」と思った方も子育て終えた勢のなかにはいるみたい。主人公は3人の子供を育て終えたマダムなんですが、本当にこういうお母さんいそうだもんな〜。人間の孤独に終わりなし。

(※この本について書いたコラムはこちら)
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1位 『リヴァイアサンポール・オースター

リヴァイアサン (新潮文庫)

リヴァイアサン (新潮文庫)

2020年に読んでよかった本、1位はポール・オースターの『リヴァイアサン』。理由はシンプルに、主人公のベンジャミン・サックスというテロリストが、自分とよく似た思想の持ち主だったからです。私は常々自分のことを「一歩間違えていたらテロリストになっていたかも」「一歩間違えていたらカルト宗教にハマっていたかも」と思っているんだけど、なんか、狂信的なんですよね、根が。ときどき噴出する破壊衝動を「どうどう」と制してくれるのはいつだって文学(あるいは映画)なので、やっぱり私は文学に救われている人生だな。

(※詳しい感想はこちら)
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まとめ

「人生何が起きるかわかんないからね〜」とは昨年だって一昨年だって言っていたし理解もしていたが、それにしたって、「まさかこんなことになるとは思わなかった」の一言に尽きる1年だったし、これは決して私ひとりのごくごく個人的な感想ってわけでもないと思う。今日眠って明日起きたら実はまだ2020年の2月後半くらいで、「全部夢でした〜」というオチもありうると私は思っていますからね。いやー、こんなことってあるんだなあ。


医療従事者の方や経済的に困窮している方のことを考えると、一時期は何を書けばいいのかわからなくて何も書けなくなってしまって、今もまだその状況を完全に脱したわけではない。でもまあ、私にできるのはせいぜい少額の寄付をすることと、真面目に働くことと、経済をまわすことくらいなので、来年もあまり身分不相応な欲を出さずに黙々とやっていきたい。


最後に、出版からもう1年以上が経過しましたが私の本の宣伝です。今もときどきTwitterで感想を呟いてくれる人がいるので嬉しい。よいお年を。