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チェコ好きの日記

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綾と拓哉と喪黒福造と公平世界信念

思ったこと

2015年のブログの更新はこれが最後です。昨年もやってたのですが、今年の1月から1つずつ(自分のなかで)印象に残っているエントリを選んで、12個並べて今年を振り返る試みをやります。今年はちょっと更新が少なくて、10記事以上更新した月が1度もありませんでした。ちなみに、当エントリの意味不明なタイトルは読む進めるうちにキーワードが出てきますのでご心配なく。付け間違えたわけではありません。

まずは1月からいきます。

1月 抱える退屈を愛したい

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2015年、『暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)』にはとてもお世話になりました。もう1年前に読み終わった本なんだと思うと時の流れの早さをかんじますが、今年はここからスタートして、いろいろな問題に波及していったのだという感覚が自分ではあります。

今私が考えているのは、「退屈」は悪者ではない、ということです。もし今の生活にあなたが退屈をかんじていたら、それはきっと「ちがう環世界に移動しよう」という合図です。いたずらに刺激を求めて走るより、その退屈を抱えて愛したほうがいい、と思います。

2月 もしも綾と拓哉が喪黒福造に出会ったなら

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2015年下半期に話題を集めた東京カレンダーの連載があって、女性バージョンの「綾」の物語と男性バージョンの「拓哉」の物語があるのですが、このエントリを書くために上記の2月のエントリを読み直していたら、「もしも綾と拓哉が喪黒福造に出会ったなら」というタイトルで二次創作したら面白いのができそう、と思いました。

いよいよ明日で最終回!東京女子図鑑・綾の物語総集編[東京カレンダー]
いよいよ明日で最終話!「東京人生ゲーム」全話総集編[東京カレンダー]

私の集計では、漫画の『笑ゥせぇるすまん』で喪黒福造によって奈落の底に突き落とされた人間の多くが持っていた欲望は、「憧れ」でした。「憧れ」や「上昇志向」は決して悪いものではないし、多かれ少なかれだれでも持っているものです。東京カレンダーの綾と拓哉も、かなり上昇志向の強い人たちだったと思いますが、それが常軌を逸したレベルのものだったとは思いません。

となると、漫画のなかで喪黒福造に「ドーン!」された人たちは、何が悪かったのでしょう? また、私が少し意地悪な気持ちで「綾と拓哉が喪黒福造に出会ったら」と考えてしまった理由はなんでしょう?

人間は、不幸や災害に巻き込まれたとき、明確な理由を求めがたります。◯◯したからこんな目にあったんだ、◯◯しなければ幸福な人生が歩めたはずだ、と。だけどおそらく、漫画を読みながら考えたのですが、喪黒福造は「ドーン!」する人を選びません。過剰な憧れを持たずに、質素に穏やかな暮らしを送っている人であっても、少しの「ココロのスキマ」があれば喪黒福造はやってきます。一方で、評価を外部の基準に求め、中身がなくて薄っぺらな綾と拓哉を、喪黒福造は余裕でスルーすることもあります。『笑ゥせぇるすまん』はブラックユーモアであって勧善懲悪の物語ではないんですね。

「◯◯したからこんな目にあったんだ」と原因を探し、犯罪や災害の被害にあった人を責めてしまう心理のことを「公平世界信念」というそうです。「だれのもとにでも喪黒福造はやってくる」というと、怖くて人間は耐えられません。自分はこんなことしてないから大丈夫なはずだ、綾や拓哉のような価値観は持っていないから大丈夫だ、と思いたいですよね。だけどそんなことはなくて、喪黒福造はだれのもとにでもやってくる可能性があります。

綾と拓哉の物語は、どちらも40代で終わっています。だけど、実際の人生は多くの場合40代では終わりません。50代、素敵なマダムになっている綾の物語も考えられるし、50代、喪黒福造的な何かに出会って、頽廃的な生活を送っている拓哉の物語も考えられます。本当の人生ゲームはお墓に入るまで終わらない。「おばさんになって惨めな綾」と「大逆転をキメた成功者の拓哉」の続きを考えるのは、私でありあなたであるということです。

私がもし二次創作をやるなら「東京カレンダーの2人が喪黒福造に出会って人生のレールを大きく外れるも、最終的にもう1回這い上がって幸せに大往生して死ぬ話」とかにしようかな。かなりの大長編になりそうです。みなさんも考えてみてください。

3月 90年代と岡崎京子

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上記は3月に行った岡崎京子の『戦場のガールズ・ライフ』展の感想文なのですが、賛否まじえたいろいろな意見をいただきました。もし岡崎京子が休筆していなかったら、今どんな物語を紡いでいたのだろうというのはやはり気になるところですね。

いただいたブコメのなかに「”その後”まで漫画に求めるのは酷」という主旨のものがあって、それは確かにそうかもなあと思いました。ただ、東京カレンダーの綾の物語もそうなのですが、「若いうちが華」というか、そういう刹那的な感性って私はやっぱり好きになれません。岡崎京子は偉大な漫画家だし、私も相当の作品数を読み込んでいるつもりですけど、それでもこの3月の感想文に書いた考えは今も変わっていません。

4月 アメリカのPUAは喪黒福造に会っていた!

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2015年の上半期は岡田斗司夫さんとか恋愛工学とか、男女関係のトラブルでインターネットがフィーバーしていた印象が強いです。そんななかで読んだアメリカのナンパ師の本『ザ・ゲーム』だったのですが、この物語の登場人物である「ミステリー」は、きっとバー「魔の巣」で喪黒福造に会ってますね。テクニックを駆使して過剰なナンパ行為を繰り返したミステリーは、次第に精神を病んでいきます。最初、それは万能感溢れる快楽だったのかもしれないけれど、「ドーン!」されちゃった彼のその後には、なんだか少し同情してしまいます。そういう意味では、『ぼくは愛を証明しようと思う。』の永沢さんは現代版の喪黒福造だったのかもしれません。

この本のなかにある、「カエルとサソリの話」がやっぱり私は好きです。身につけた武器で自らを殺さないようにしましょう、私も、あなたも。

5月 好きな絵を告白するのめっちゃエロい

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上記のエントリは国立新美術館で開催されていたルネ・マグリット展の感想文なのですが、なぜか結論が「好きな絵を告白するのめっちゃエロい」になってしまいました。なんでそういう話になったのかは本文でご確認いただくとして、マグリット展とてもよかったです。

6月 異文化交流の会

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6月は、神保町のEDITORYという会場でトークイベントを行ないました。一緒に登壇したファーさんと鳥井さん、お手伝いしてくれたUchilaさんやスタッフの方、来てくださった方、本当にありがとうございました。私自身も、このイベントを通して仲良くなった方がたくさんいるので、実り多い機会となりました。

それでもいちばん嬉しかったのは、私の読者として来てくれた方がファーさんや鳥井さんの読者になったり、その逆があったりしたことです。「どうやったら今の自分の興味や好奇心を越えた面白いものに出会えるだろう?」というのは私が今現在進行形で考えていることなのですが、振り返ってみると、このイベントで僅かながらもそのきっかけを提供できたのではないかと思っています。私のブログをよく読んでくれている方は、他の2人(特に芸風がまったくちがうファーさん)の文章を読んだことのない人もいたと思うので。

来年も、変なこといっぱいやりたいですね。

7月 ダニに関する長文を書くの巻

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7月のこのエントリは、訳のわからないことを訳のわからないまま書いたにも関わらず「面白かった!」という声をいっぱいもらえて嬉しかったです。環世界の話、面白いですよねー。

私はまだドゥルーズがいっている(らしい)「動きすぎてはいけない」という言葉がどういう意味なのか、あんまりわかっていません。これは2016年に持ち越しです。

8月 今年はカンボジアに行ってきました

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実ははじめての東南アジアだったので、行く前はけっこうびびっていました。シェムリアップのアンコール遺跡が素晴らしかったのはいうまでもないですが、もしこれからカンボジアに行く人がいたら、やっぱり首都プノンペンを訪れることをおすすめします。プノンペン、はっきりいって変な水たまりがそこらじゅうにあるしゴミめっちゃ捨ててあるし野犬がウロウロしてるしできったないんですが、そんな風景も好きになってしまうくらいのエネルギーがある都市だったし、トゥール・スレン博物館やキリング・フィールドで考えたことを、私はずっと忘れないと思います。

9月 宗教について考える

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9〜12月の2015年の後半は、イスラエルに行きたすぎるせいでキリスト教ユダヤ教イスラム教のことばっかり考えていました。現在、この地域はイスラエル人とパレスチナ人の対立が激化しています。毎年世界中からたくさんの観光客が訪れて賑わうイエス生誕の地・ベツレヘムのクリスマスは、催涙弾のにおいが立ち込めるなか、今年は閑散としていたといいます。

早くこの地域が、たくさんの観光客で賑わう街にもどることを祈っています。まじで。

あと9月は、京都でのトークイベントにも登壇しました。会場の「Deまち」がすごくいい空間でした。今後もますますの発展を祈っております。
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10月 イタリアとは生きる悦びであり、モロッコとは謎と驚異である

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また旅行の妄想してますね。10月はなんと3記事しか更新していなくて、これはブログ開設以来の少なさです。あんまり10月の記憶ないです、きっと忙しかったのでしょう。

11月 ぼくらのクローゼット

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オフ会自体は10月末でしたが、ブログを書いたのが11月なので。シロクマさんやズイショさん、イチローさんや川崎貴子さんなどにお会いできた貴重な機会となりました。ブログのほうは、11月も4記事であまり更新してなかったですね……。

12月 ちょっと更新頻度もどった

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……という変遷を経て今に至るわけですが、まとめると、2015年はこのブログ以外にイベントに登壇したり連載が始まったりnoteを更新しだしたりと、語る場所を増やした1年になりました。あと関西に出向く機会が増えたりとか、旅行先はこれまで行ったことのなかった東南アジアだったりとか、移動も多かったです。来年もいっぱいいろんなところに行けたらいいなあと思います。

「東京カレンダーの二次創作」に話を戻すと、私は綾や拓哉がプラハとかローマとか、あとどこでもいいや仙台とか、東京とかニューヨークのような場所以外で生活する物語を書きたいです。都市ってそれ自体が生命体なので、そこで生活すると自分はその都市の細胞の一部になります。だから、ギラギラした欲望とは無縁の、歴史や遺跡を大切にする街や自然を大切にする街で暮らしたら、2人がどうなるかなというのを考えると楽しい気がする。もちろん、どこでどんな生活を送ってたって、喪黒福造は私たちのあとをずっとつけてきて、あるときふとバー「魔の巣」へ誘い込むんですけどね。

のんびり今年を振り返っていたら思いのほか長くなってしまいました。良い年末年始をお過ごしください。

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(※この写真気に入っている)